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笹幸恵
2016.6.3 15:18

主語は正しく、明確に!

読売新聞(6/3付)に、オバマ大統領が

広島訪問時のスピーチに念入りに推敲を重ねていた

という記事が載っていた。

関連記事では「細部までこだわり」という見出し。

具体的にどこが修正されたかを示し、

「いずれの修正からも、オバマ氏が、

原爆の完成と広島への投下、犠牲の大きさに

思いをめぐらせながら、声明の一言一句に

こだわった様子が伝わってくる」

と綴っている。

 

つまり、広島への強い思いがあった、

と言いたいのだろうか。

 

オバマ大統領は次のように修正している。

 

閃光と火の塊が街を破壊し、人類が自らを滅ぼす

手段(meansを手にしたことを見せつけた。

 

元の文章は、meansではなく、capacity(能力)だったという。

 

これに、大学教授のコメントを載せて、記事を締めくくっている。

 

「人類が自らを滅ぼすためには『能力』だけでなく

『手段』が必要。より具体的に原爆をイメージしやすい」

とし、(細部までこだわったのは)原爆投下の事実に

より具体性を持たせるためだったのではないかと指摘した

 

そ、そ、そうかなーーーー?

少しもそうは思えないのは、私に英語の能力が

ないからか?

 

具体的にしたいのなら、まず主語を明確に

しなければ!

「閃光と火の塊が」ではなく、

「アメリカ合衆国の落とした原爆が」でしょ?

 

主語の不明瞭さなら、スピーチの冒頭も負けていない。

 

Seventy-one years ago, on a bright,cloudless morning,

Death fell from the sky and the world was changed.

71年前の快晴の朝、空から死が降ってきて、

世界は変わってしまった。)

 

当初、私は日本語の持つ情緒的な響きをふんだんに

使った翻訳だなあと思っていた。

日本人好みに意訳したのかとさえ思った。

けれど原文を見れば、日本語訳はじつに忠実だ。

 

空から勝手に死が降ってくるわけないだろ!

おたくの国が、わざわざテニアンからB29で

原爆を運んできたんじゃないの。

センチメンタルな表現と、原爆のむごたらしさの

あまりにも大きいギャップに、背筋がぞわっとした。

この人は、いったい何が言いたいの?

 

そりゃ確かに、日本も原爆を開発しようと

目論んでおりました。

ドイツだって、そう。

アメリカがいち早く開発を成功させただけの話。

 

だからと言って、原爆を投下し、非戦闘員を

無差別に一瞬にして殺戮した罪が無くなるわけではない。

それを「空から降ってきた死」のせいにしちゃダメでしょう。

 

そんな大統領が丹念に推敲していたからと言って、

日本人は有り難がっていてはダメでしょう。

 

どれだけ美しい話にすがりたいのか。

あまりの有り難がりっぷりに、めまいがする。

 

笹幸恵

昭和49年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト。大妻女子大学短期大学部卒業後、出版社の編集記者を経て、平成13年にフリーとなる。国内外の戦争遺跡巡りや、戦場となった地への慰霊巡拝などを続け、大東亜戦争をテーマにした記事や書籍を発表。現在は、戦友会である「全国ソロモン会」常任理事を務める。戦争経験者の講演会を中心とする近現代史研究会(PandA会)主宰。大妻女子大学非常勤講師。國學院大學大学院文学研究科博士前期課程修了(歴史学修士)。著書に『女ひとり玉砕の島を行く』(文藝春秋)、『「白紙召集」で散る-軍属たちのガダルカナル戦記』(新潮社)、『「日本男児」という生き方』(草思社)、『沖縄戦 二十四歳の大隊長』(学研パブリッシング)など。

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